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79Vはリアの嵩上げを廃止しちゃった(3)

前回、そして前々回と79V(初代スバル・フォレスター)の操安乗り心地の開発において
リア・サスペンションの嵩上げというものを廃止して、
やや前のめりのロール感にするとともに大きくロールしても腰砕け感がでないようにしたと書きました。
今回はロール感とはちょっと違った視点でのリア・サスペンションの嵩上げ廃止の狙いについて
書いていきたいと思います。

前々回ではロールセンターとロール軸の概念からロール感を
そして前回ではロールセンター変化に目を向けて腰砕け感の話をしたのですが、
今回はロールセンターではなくトレッド変化(スカッフ変化とも)に着目して
安定性、とりわけ高速安定性や過渡安定性というものについて話をしていきます。

なるべく分かりやすく書いていくつもりではありますが
それでも図解するのは面倒なので(orz)文章だけで済まそうとすると
なかなか上手く伝わらないかもしれません。
その点はご容赦お願いいたします。
もっとも伝わらなくてもお互いに不利益はないでしょうけど(汗)

トレッド変化といっても車両諸元表に書いてあるトレッド幅が変化するという意味ではありません。
サスペンションのストロークによってタイヤの接地中心点が左右に変化することを意味しています。
幾何学的には瞬間中心がどこにあるかによってその変化量の大小が決まってくるのですが
ストラット・サスペンションでイメージするならば
ロアアームが正面視で水平近くならストロークしてもあまり接地点は左右に変化しないけれど
ロアアームがハの字が強くなるほどバンプストロークした時に接地点は大きく車両外側に移動します。

まぁこのことからの想像できるようにトレッド変化もロールセンター高さと密接に関係していて
一般的にロールセンターが高ければトレッド変化は大きくなります。
そして、ロールセンターが低くて地上に潜り込んでいるような場合(ローセンター高がマイナス)だと
バンプストローク時に接地点は車両内側に移動するのでマイナスのトレッド変化量になります。

 

例えば、左にハンドルを切った場合、車両は右側にロールしていきながら左に旋回していきます。
この時、車両の外輪=右側のサスペンションはバンプストロークしていきますから
トレッド変化が大きければタイヤ接地点は(車両から見て)外側に移動していきます。
これを俗に「蹴りだし効果」とも呼んでますが、車両から見ればタイヤ接地点を外側に蹴るイメージですし
地面(道路)側から見れば車両を旋回内側に入れようという力になります。
正しくは、車両進行方向の移動速度(車速)に対して接地点の横移動速度(=トレッド変化速度)分だけ
タイヤにスリップアングルが発生するためにタイヤに横力が発生するということなんですけどね。

フロントのトレッド変化は旋回時により強く旋回する力を生むことになりますし
逆にリアのトレッド変化は旋回時に旋回を抑え安定させる力を生むことになります。
つまりは、ロール軸が前下がりならトレッド変化もフロント<リアとなって安定性を高めることになります。

ここで重要なのは、このトレッド変化による「蹴りだし効果」はトレッド変化速度に依存していることです。
あるいはロール速度に依存していると言いかえることもできます。
つまり、大きく横Gが掛かってロールしていても一定の旋回をしている定常状態では効果はなく
ハンドルを切ってグラッとロールしていく途中の過渡状態で大きな効果が出るということです。

 

ところで、クルマというものは定常状態より過渡状態の方が不安定になります。
どんなクルマでもそのような傾向なのですが、特に(当時の)スバル車はその傾向が強かったです。
急ハンドルではどうしてもリアがしっかりせずにスピンしやすくなり
一方でじわっとハンドル切っていくと曲がりにくくなってしまうのです。
だから、コーナー進入前に急ハンドル切ってリアを滑らせてコーナリングするような走り方をする
コリン・マクレーのような激しいドライビングが似合うのかもしれませんが……

けれども、このリアの嵩上げ廃止によりリアのトレッド変化を大きくしてやれば
定常的な曲がりやすさを犠牲にせずに過渡的な安定性を高めることができることになります。
つまり、79vのリアの嵩上げ廃止のもうひとつの狙いはそこにあったわけです。

 

ただし、リアのトレッド変化は大きければ大きいほど過渡的安定性が高まって良いかというと
話はそんな単純なものではありません。
クルマは直線を走っていても路面の僅かな凹凸でもサスペンションは上下にストロークします。
だから振動を吸収し乗り心地を良くしタイヤの接地性を良くしているわけです。
トレッド変化が大き過ぎればその凹凸によるサスのストローク時にも
「蹴り出し効果」と同じ理屈で横力が発生してクルマは勝手にフラフラと左右に揺すられてしまいます。

特に偏平なスポーツタイヤなんて履いていたらその影響は大きくなり
乗員は落ち着いてられないし不快なことになってしまいます。
けれども、79VはSUVということでそんな偏平スポーツタイヤは履きませんから
そのことも含めて全体のバランスを考え、
さらに台車(初期の試験車)で確認試験をしてこれなら狙い通りという確信を得て
リアの嵩上げ廃止をするという判断と提案をすることになったというわけです。

 

さて、今回もキリがいいのでここまでとします。
次回は(すいません、まだ続きます)、リアの嵩上げを廃止して結果的に良かったという
ある意味で当初想定外でラッキーだったことについて書いてみたいと思います。

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コメント

続編のアップありがとうございました。
素人には、ちょっと難しかったです(汗)。
ちなみに初代フォレスターが売られていた当時、
大径ホイール+扁平タイヤ+車高下げの組み合わせのドレスアップが
一部のユーザーの間で流行っていたと思いますが、
このいじり方は、JETさんの意図していたものとは違っていたと
いえるのでしょうか?
個人的にあまりカッコよく見えなかったのですが。

投稿: よっさん | 2019-08-24 22:44

>よっさん

素人ではないんじゃないかと……(笑)

インチアップやシャコタンはどんなクルマでもやる人はいるかと思います。
それぞれの感性で自己責任でやる分にはいいんじゃないでしょうか。
 
ただ、SUVとはまた別の方向性として四角い箱型ボディだけで車高(最低地上高)は高くしないというジャンルのクルマはスバルとしても模索していいんじゃないかと思ってましたけどね。

投稿: JET | 2019-08-25 05:35

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