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79Vはリアの嵩上げを廃止しちゃった(1)

初代スバル・フォレスター(開発符号79V)の操縦安定性・乗り心地の開発にあたって
当時ぺいぺいの実験部員であったボクが目標性能(数値)を設定して
さらに数値に表しづらい走り味・乗り味を密かに決めていたことを前回記事に書きました。

今回からはそれらの数値目標の達成や走り味・乗り味の実現のために
どのようなことをやったのかを書きていきたいと思います。

なお、当時のスバル(富士重工業)にはプラットフォームという概念はありませんでしたが
会社の業績はよくなく、79Vはまったくお金を掛けられない(コストも投資も)ですし
そもそもがインプレッサのフルモデルチェンジ(スキンチェンジ)からスピンオフした車種ですから
今で言うプラットフォームに相当する部分は初代インプレッサのものを流用することが基本でした。

ちなみに、初代インプレッサも初代レガシィのプラットフォームに相当する部分を流用して
後席フロアパネル(とAWDの場合はプロペラシャフト)を短くしただけとも言えます。

そういう中では、新車の操安乗り心地開発といってもタイヤを替えて
あとはバネ(定数)、ダンパ(減衰力)をチューニングするだけ、
あるいはせいぜいスタビライザーとブッシュを少しチューニングする程度、
つまりいわゆる街のチューニングショップと大差ない程度にしか思われないかもしれないですね。
もちろん、そういうことも重要なことなんですけど。

さきほど、79Vは基本的にプラットフォーム相当部分はインプレッサの流用と書きましたが
SUVらしく大径タイヤを履いて車高を高くするために「嵩上げ」と呼んでいたことをしています。
これは、79Vよりも先に2代目レガシィをベースにした
アウトバック(開発符号26G、日本ではレガシィ・グランドワゴン)がやっていた手法です。

サスクロ(サスペンション・クロスメンバー)と車体フロアの間に30mmほどのブロックを差し込んで
車体全体を上に“嵩上げ”するということです。
サスペンションのバネだけで車高を上げるとサスペンション・アームなどの角度が大きく変わってしまい
アライメントやジオメトリーが滅茶苦茶になってしまいますが、
嵩上げの手法ならそうならないので大きな問題が生じにくいというわけです。
ただし、サスクロにはエンジン、ミッション、デフも取り付けられていますので
嵩上げではそれらは上がりませんから車体に対して置いてけぼりとなります。

ちなみに、サスクロやエンジン、デフなどが嵩上げで上がらなくても
大径タイヤ(半径で30mmほど)を履いているのでそのぶん最低地上高は高くなります。

というわけなので、79Vの開発スタート時点では26G同様の嵩上げ手法をとることになってました。
しかし、ボクはリアサスの嵩上げ廃止を提案することにしました。
フロントサスは26G同様嵩上げするけどリアサスは嵩上げしないという変な案です。
どうしてこんな妙な提案をしたかと言いますと、、、

 

その答えの前に初代レガシィ、初代インプレッサのサスペンションについて少し解説しておきます。
4輪ストラットといっていてリアサスもストラット形式となってました。
2本の並行のラテラルリンクで横方向の位置決めをするのでデュアルリンク・ストラットと呼んでました。

ちょっと脱線しますが、ワゴン造るのにリアストラット・サスって非合理な選択なんですよね。
せっかくのワゴンの荷室にストラットタワーが出っ張り荷室を狭くて使いにくいものにしているし、
トップマウントの横方向の剛性をしっかり確保できないですし(タワーバーみたいなのが付けられない)、
トップマウントが後席乗員耳元に近く遮音しにくいのでロードノイズも侵入しやすいですからね。
このサス形式だけとってみても初代レガシィの頃はセダン中心で
ワゴンは付け足しで設計していたことが明らかになってしまってます。

当時はそれを誤魔化すために、ストラットタワーの張り出しは商用バンでなく乗用ワゴンの証、
みたいな苦し紛れの言い訳をしたりしてましたけど(笑)

それよりも操縦安定性・ロール感という点でこのリアストラットサスは弱点があったのです。
それは、ロールセンターが低くてその移動量が大きいということです。
一般の人にはロールセンターってものが何なのか分からないでしょうし
自動車評論家とかいわれる人の中にもロールセンターと重心をごっちゃにしてるような人もいますが、
ロールセンターとはサスペンションのリンク配置などから
左右輪がストロークしてロールしていくときの幾何学的な回転中心のことです。

フロントサスとリアサスそれぞれにロールセンターを想定することができますから
その前後のロールセンターを結んだ仮想の軸をロール軸と呼びます。
イメージとしてはそのロール軸を中心にしてクルマがロールすることになります。
喩えはあまりよくないですけど豚の丸焼きみたいなイメージでしょうか。
その串がロール軸ですかね(汗)

ですから、リアのロールセンターが低いとロールしていくときに後方にのけぞるようなロールになり
逆にリアのロールセンターが高いと前のめりのようなロールになります。
重心高が高くてロールが大きくなるSUVやミニバンなどでは後方にのけぞるロールは
乗員に対して恐怖感を抱かせやすいのでやや前のめり気味となるように
フロントよりリアのロールセンターをやや高めに設定するのが好ましくなります。

というのは、通説として確立されている理論ではなく79V開発の初期段階の実験から得た結論です。
この頃は初代インプレッサワゴンを改造して試作で製作された「台車」という試験車で実験するのですが
79Vのカタチになった時のことを想定してその台車にルーフキャリアを装着して
そこにバラスト(砂袋)を括りつけて重心高を合わせるとともに
運転席や後席の座面高さを座布団などで上げてその状態で走行してロール感などを評価してました。

情けないことに当時の開発では設計&企画部門では重心高すら管理・推定できずに出来なりでしたから
操安実験部門のボクがちまちまと重心高の簡易推定をするとともに
それをもとに重心高の目標値を実験から提案するというなんとも不思議な状態でしたね。

昔のスバル360の頃の開発資料などを見るとちゃんと企画段階から重心高が記載されてるのにねぇ。
百瀬さんはじめ元は航空機エンジニアなので重心位置が極めて重要なことは分かっていたんでしょうが
いつの間にかとてもいい加減になってしまってたんですよね、あの頃は。
重心高さえ管理できないのに「水平対向エンジンで低重心です」なんて謳っていたんですよ(笑)
いまではもう少しまともになっているはずですが……

 

気が付くと、またまたやたら長文になってしまってますねorz
というわけで、リアロールセンターを上げてやや前のめりのロール感にするために
リアの嵩上げを廃止することを提案したというわけです。
嵩上げ廃止以外にもリアロールセンターを上げる方法がないわけではないですが
レガシィやインプレッサとの部品共用化を最大限して投資やコストを抑えながらできることは
嵩上げ廃止以外にはなかったのでこれを提案したというわけです。

なおリアの嵩上げ廃止には単純なロールセンター上げの他にも様々な狙いもありましたし、
79Vの操安乗り心地でやったことは他にもいろいろあるのですが、
それはまたの機会の記事にしたいと思います。
今回もだらだらと長文失礼いたしましたorz

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コメント

いろいろと勉強になります。ありがとうございます。
(2)も楽しみにしています。

投稿: よっさん | 2019-07-27 19:46

>よっさん

いろいろ教えてもらうことの方が多いかと思ってますが。。。
またよろしくお願いします。

投稿: JET | 2019-07-28 21:20

ロールセンターの話はとても納得できました。

投稿: 並さん | 2019-08-18 22:44

>並さん

よかったです。
チンプンカンプンでまったく分からんとか思われる方が多いかもと
ちょっと心配していたので、ひと安心です。

投稿: JET | 2019-08-19 01:51

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