79Vの操安乗り心地目標は「安心感と悦楽」
前回のこの記事で、次回は79V(初代スバル・フォレスター)の
操縦安定性・乗り心地の開発目標の話をしますと宣言してしまったので
ようやくなんですが今日はその記事を書きたいと思います。
前回の記事では、79Vはレオーネ4WDワゴン(エステートバン)への回帰と
ボクは考えていたと述べましたが、かといって79Vの操安乗を
古臭いレオーネそのものにしようという意味ではありません。
それでも、当時のスバルは「高級ホテルに乗り着けられるワゴン」とか
「ワゴン最速」を目指した二代目レガシィや、
WRC活躍のインプレッサWRXなどをはじめとして
オンロード指向、ハイスピード指向、それによる高付加価値指向に
偏っていた時期ですから、それらとは違う方向でかつ古臭いと言われた
レオーネなどのレガシィより前のスバル車の中にもあった
スバルらしい良さをしっかり再認識して
それを現代的に解釈して開発目標に落とし込んで行こうと考えたわけです。
なお、レオーネ4WDワゴンの嫡流はフォレスターではなく
アウトバック(ランカスター)だろうという指摘もあるかもしれませんが、
レガシィそのものがレオーネより上級移行していますから
道具として使い倒すクルマとしての性格はフォレスターの方にこそ
強く受け継がれているとボクは考えています。
また、フォレスターでも初代・2代目まではややロールーフのワゴン的で
そこまではレオーネの嫡流だととらえても良いけど、
3代目からはルーフが高くなりレオーネワゴンとは違うという形態という
そんな指摘もあるかもしれません。
ただ、初代は生産設備等の理由であれ以上ルーフを高くできなかっただけですし
当時の大半のクルマは背の低いセダンやワゴンばかりであったことからすれば、
ミニバンやSUVや軽トールワゴン全盛の今の時代であれば
3代目以降のフォレスターもレオーネ4WDワゴンの正常進化と言えるでしょう。
少なくともボクはそう考えています。
ちょっと話題が逸れてしまいました。
79Vの操縦安定性乗り心地の目標性能設定にあたっては、
もう25年も前のことなので、いささか小っ恥ずかしいのですが
ボクはこんなことをその目標性能の報告書に書いていました。
走り味の考え方
街中,高速道路,ワインディング,ラフロードなどの様々なシチュエーションの中で,
いつでもどこでも,「安心感」と「悦楽」とが高次元で融合した走りを目指す.
・ゆっくりとした穏やかでスムーズな動き
・しっかりとした明確で緻密なインフォメーション
・柔らかく軽やかなタッチ など
まぁ、これだけ読むと、スバルが今も言っている「安心と愉しさ」と変わりませんね。
当時もどの車種でも似たようなことを言っていたかもしれませんが
それでもいちおう他人の言葉や他車種の目標性能をそのまま借りてきて
この文言を書いたわけでもなくボクのオリジナルの文言です。
なので、それとほぼ同意のことを今のスバルでも謳っているというのは
正直なところちょっと嬉しくも誇らしくもあるところです。
けれども、この「悦楽」って言葉はいろんな人から
「よく分からん」とか「卑猥な印象だ」とか非難されることもありました。
むしろ、ボクの狙いはそこにあってわざとこの言葉を使ったのですが。。。
当時のスバルはWRC(世界ラリー選手権)での活躍などもあって
「(走りの)愉しさ」とひと言でいうと多くの人は(インプレッサWRXのような)
速く走れることとかキビキビ曲がることと単純に考えがちでした。
フォレスターはそういう愉しさとは一線を画す、
あるいは対極にあるものだと考えていたからです。
だから、ちょっと分かりづらい言葉を用いて少し考えてもらおうとしたわけです。
また、確かに「悦楽」には官能的な愉しみという意味があるので卑猥な印象もありますが、
人間(運転者や搭乗者)の感覚で試験・評価をすることを官能評価の呼んでいて
単なる計測数値・物理値の大小・良悪ではなくもっと人間の感性に寄り添った
運転する愉しさや移動する愉しさを実現したかったということ含んでいたわけです。
そのような意味合いで「悦楽」という言葉を使ったものの
それだけではなかなか伝わりませんのでその報告書では
A4用紙にびっしり5ページにも渡ってその辺のことを長々と書いてしまってました。
まぁほとんどの人は読まなかったと思いますが……(汗)
おそらく上司もあまり読まなかったのでそのまま通っていったのでしょう(爆)
もちろん、上記のようなことはあくまでも“考え方”だけであって
目標性能として物理値の設定もしてありますが、
それをここで具体的に書くことはさすがに憚られますし、
また一般の方にはなんのことやら分からん数値の羅列になってしまいますので
割愛させていただきます。
ざっくり言えば、ギヒギヒ動くより安定性良くして、乗り心地は良く、
旋回の限界はそこそこでロールもある程度大きくて、ハンドル軽くするって感じです。
ある意味で、当時のスバルの流れのとはほとんど逆行しているような目標でしたね。
ちなみに、目標性能設定当時はまだRAV4、CR-Vは発売されてませんでしたから
比較としてはRVR、エスクード、チェロキーなどの他に
インプレッサ、ランカスター(アウトバック)はもちろん
カルディナ、アベニールなどの普通のワゴンや
カローラ、ゴルフ、ルーテシアなどの乗用セダンやハッチバック、
さらにはセレナやエスティマなどのミニバン系まで幅広く並べて検討してました。
要するにどれかのクルマを競合に見立てて数値で勝とうとするわけでもなく
何かのクルマをお手本にして真似るわけでもなく
世の中に出回っている多くのクルマの群れからまずは逸脱してないことと
その中でどこに特徴を持って行くかをきちんと見ていこうという考えからです。
このようにして目標性能を決めたのですが
実際には数値そのものよりも数値では表しきれない走り味・乗り味の部分に
個人的には密かに拘りました。
その辺についてはまた次回(何時のなるのかな)の記事にしたいと思います。
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