新書「火山で読み解く古事記の謎」を読了
文春新書の「火山で読み解く古事記の謎」蒲池明弘著を読みました。
古事記の中でも神代の部分だけを取り扱っていますし
日本書紀なども参照されていますので
前回読んだ大林太良著「神話の系譜」との接点がありそうな内容です。
実際、この本の中でも大林太良氏のことを「比較神話学の大家」として紹介されてます。
しかし、この本の著者の蒲池明弘氏は大林氏とはまったく異なった意見を持っています。
例えば、有名な天照大神の天岩戸隠れの神話について
一般的には日食もしくは冬至を示唆していると云われますが
著者は火山の大噴火ではないかと書いています。
その火山=スサノオであり、父から海を治めろと命じられていることから
九州の南の海底火山のことであろうとしています。
そこには約7300年前に大噴火した跡となる鬼界カルデラがあります。
硫黄島などがその鬼界カルデラの縁に位置しています。
火山の大噴火であれば何日間もあるいは何ヶ月も日照を遮るほどになり
マグマ・溶岩・噴石・火砕流(海を走るそうです)・火山灰などによる
甚大な自然破壊と人的被害をもたらしますから
日食や冬至などとは比べものにならないくらいの大事件になります。
かねがね、日食説が腑に落ちなかったボクにとっても
この火山説はすっと納得がいくような気がしますね。
また、スサノオのヤマタノオロチ退治の神話についても
一般的にはヤマタノオロチは度々氾濫する斐伊川のこととか云われますが
これまた火山噴火によるマグマや火砕流のことではないかと書いています。
旧石器時代から縄文時代にかけて出雲地方には活発な活火山地域であったそうです。
これまた、そちらの説の方が納得感が得られます。
他にも、何故天孫降臨は九州南部の高千穂なのかとか
神武東征は熊野を通ったのか、そもそも“熊”の意味はなにか、
ヤマトタケルの活躍は何を意味するのか、タケル=岳ではないか、、、
などなど面白い説が展開されていきます。
もちろん、こういった火山に関連する説は蒲池氏のまったくのオリジナルではなく
今までも多くの人によって提示されてきたものの
主流の説とは認められていないものです。
ただ、真偽のほどはともかくとしてこういう話は
古代にロマンを馳せるには面白くて良いですね。
それにしても、もし神話が火山と関係しているとすると
それは古事記などが編纂されるはるか以前の縄文時代に遡ることになり
記紀の神代の神話は後代のでっちあげなんかではないということになりますし、
古墳時代、弥生時代を越えて縄文の記憶が代々日本人に伝わっていたわけで
なんだかえらく凄いことだなと思ってしまいますね。
最後には、皇祖神・天照大神は(弥生時代以降の)
農耕稲作文化における太陽神信仰ではなくて、
実は大地(火山・地震)を鎮める祈りの信仰ではないのか
とまで言及されています。
まぁだからといって象徴天皇が被災地に出向いて祈ってくれている
というのはそれはそれで別次元の話ではないかと思いますけどね。
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