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自分が欲しい ではなく友人に薦めたいクルマ

スバル(富士重工)に勤めていたときに社内でよく聞いたセリフに
「自分が欲しくない車を作っていては売れるわけがない」
というのがありました。
逆にいえば「自分が欲しい車を作ろう」ということでしょう。

これは買うお客さんの立場になって欲しいと思う車を作ろう!
というごもっともな意味にもなりますが、
自社の車が面白くないと思っている人が
愚痴るのに使われるセリフでもありました。

あるいは、
「自社製品を買って使ってみなければお客さんの気持ちは分からない」
というセリフも耳にしました。
これは、自社の新車をほとんど買わなかったボクに対して
当てつけに言われた言葉ではなく
あくまで一般論的な話として耳にしたセリフです。

けれど、従業員販売制度など一般のお客さんとは違った買い方をしたり
寮に入るにはスバル車以外の所有は認められないとか
スバル車以外では会社の駐車場に駐車できないとか
(正確には職場からかなり遠い不便な駐車場にししか駐車できない)
通勤手当が支給されないなどの制約が多くある中で
スバル車(自社製品)を購入して使用するというのは
その時点で一般のお客さんの気持ちからは大きく異なっているはずです。

むしろ、そういう様々なしがらみの中で自社製品しか使っていないというのは
視野が狭くまた一方向からしか見ることができなくなってしまう危険性があります。
もちろん、他社のクルマも研究用として会社では見ることも乗ることも可能ですが
仕事で短期間に部分的に見たり乗ったりするのと
実際に所有して使用するのとはどうしても感じるものに違いがでてきます。
それは自社のクルマにも同じことが言えますが
そういう違い、例えばテストコースでの試験と
実際の道路で自分のクルマとして使っている感覚の違いなどを
どうとらえて評価の修正に取り込んでいくかがプロの仕事なわけです。

ですから、それは自社の車であるか他社の車であるかという問題よりも
いかに視野を広げて多面的にとらえることができるか
そのような能力をいかに身につけていくかということです。

 

さらに、ワケ分かんないと思ったセリフとしては
「責任とってコレ(自分or相手が開発に携わった車)を買わないと」
というものがありました。

もちろん、冗談半分での会話の中で発せられるセリフなわけですが
冗談としても何を責任とるのか意味不明ですし
売れなかったり不具合だしてしまったりしたのなら
1台買ったところで責任とれるもんではありません。
たとえ開発責任者であったとしても組織としてチームとして開発するわけですから
一人で責任とる話でもありませんしね。

そんなわけで、これらの
「自分の欲しい車を作ろう」
「自社製品を購入しよう」
「責任とって自社製品を買おう」
というセリフにはいつも違和感を抱いていました。

その代わりというわけでもないですが、ボクは常に
「友人に自信を持って薦められるクルマを作ろう」
と意識していました。
とはいっても、誰かれ構わずに押し売りまがいに薦めるわけではなく
あのクルマどうなのと関心がある人には
自信を持ってイチ押しできるという意味です。

クルマは趣味趣向の強いものですから
万人に薦められるクルマなんてないですし
特にスバルのラインナップは限られてますし
良くも悪くもクセの強いクルマを作っていますから
あくまでもある程度関心や興味を持っている人には薦めるという立場です。
これでもそこそこの紹介販売はできていたというわけです。

これはボク自身が購入したスバル車がそれほど多くない理由にもつながります。
サイズも含めて自分の趣味趣向に合致したスバル車が限られていたからです。
基本的に小さくて軽くて面白いクルマが好きなのですが
昨今のスバルにはそんなクルマは無くなっちゃいましたからね。

 

たまたま開発に携わる/携わった車が
自分のライフスタイルや趣味趣向に合致して
買うというのならばそれはそれで幸せなことでしょうし、
ボクももしそんな立場になれば買っていたかもしれません。

ただ、最初から自分の欲しい車(一部分であっても)を作ろうとすると
どうしても“我”が出ちゃうと思うんですよね。
スバルくらいの規模でも1車種で数10万台/年ほどグローバルで売るわけですから
5年生産すれば100万台とかの単位になるわけで
それだけ多くのお客さんが自分と同じ価値観・感性を持っているはずないのに
ついつい自分が欲しいものが正しいと思い込んでしまいがちです。

その自分というのはスバルという会社の中で
ずーとスバル車ばかり乗り継いでいるということになれば
さらにその自分の価値観は世の中のものとはかけ離れている可能性が大でしょう。

ひと頃、「プレミアムブランドを目指す」みたいなことになったスバルですが
意味としては単純に日本のBMWやアウディになりたいって幼稚な発想です。
まぁ、経営的に高付加価値戦略しかないと考えたのでしょうし
いろいろな外野に踊らされたということもありますが、
開発陣の中でも「BMW憧れるなぁ、スバルでも作れたらなぁ」なんて
なんとなく思ってた人もいるんじゃないかと思います。

でも、スバルを買うお客さんにとっては別にBMWが欲しいわけではないんですよね。
BMWより少し安くて品質が良いという和製BMWが求められてはいないんです。
そこを勘違いして「自分の欲しい車をつくろう」としちゃってるような
そんな発言をしていた人もボクはみてきたわけです。

 

もっとも今ではスバルはその愚に気づいていて
もう「プレミアムブラント」なんて言いませんし
(開発部門では)「お客さん目線で」ということをさかんに使うようになってきてました。

「自分」や「会社」の立場ではなく「お客さん」の立場・目線を考えて
性能・仕様・品質などを作っていこうということですから、
その意味では「友人に薦めることができる」に繋がっていると思っています。
是非スバルにはこれからも「お客さん目線で」
スバル車を開発していってもらいたいと願っています。

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コメント

いろいろ考えさせられますね。趣味と現実は違いますし。そういう自分はマイノリティであることを自覚してますので。

投稿: TOMO | 2019-02-09 21:04

最近のクルマはでかくなりすぎで、道が細くてすれ違いどころか通れない(トヨタのでかいRVがたたんだはずのドアミラーを両側ともバキバキやった)道路の多い我が家の近所では小さくて小回りが利くクルマが最高なんですが…
新しいClioの横幅がほぼほぼ1800mmって知って卒倒しそうです。
元々少ない欲しいクルマが段々減ってます。参った。

↓これって見えるのかな?
https://www.google.com/maps/@35.33711,139.6280537,3a,75y,301.16h,88.07t/data=!3m6!1e1!3m4!1saqltlpg76Dk6SdBAo2aB1g!2e0!7i13312!8i6656

投稿: 並さん | 2019-02-09 23:09

補足:
上記道路はワタクシが毎日歩いているところで、その狭いところは5ナンバーは余裕。
日本車でドアミラーがバッチリ畳める車種は1750mmぐらいでもいけそう。
ウチの白いのはダメそうです。
現行ハイエースのバンがここを無傷で通り抜けたのを見た時は驚愕でした。

投稿: 並さん | 2019-02-09 23:12

>TOMOさん

あぁそうか、ボク自身がマイノリティですからねぇ。
早期リタイアなんてするのも日本ではマイノリティですし(汗)

投稿: JET | 2019-02-10 04:52

>並さん

見えましたよ。
この画像も例のインプレッサが通って撮影されたものなのかな。
それとも別の器材で撮影したのかな。

全幅が広がるのは衝突安全が有利になるってことが大きいですね。
フランスだって狭い道はあって困る人もいると思うのですが……

投稿: JET | 2019-02-10 05:04

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