69D開発と併行していろいろ兼務してた 後編
前回の記事で25年ほど昔の69Dスバル・ドミンゴ(2代目)の操安乗り心地開発当時は
それと併行して以下のようないろいろな業務をしていたことを書きました。
1,台湾トラックの開発支援
2.サンバーのVA(コストダウン)と市場不具合対応
3.ステアリングホイールの慣性モーメント計測
4.横風安定性のシミュレーションプログラム制作
5.横滑り角算出プログラム制作
6.周波数応答試験結果からタイヤのコーナリングパワーを推定するプログラム
このうち、1~3まではその前回の記事の中で説明しましたので
今回は4~6についてちょっと説明していきたいと思います。
ただちょっと専門的な話にもなりますのでなるべく分かりやすく書きたいですが
小難しいと思われたならご勘弁です。
4.横風安定性のシミュレーションプログラム制作
サンバーやドミンゴは横風を受ける側面の面積が大きく
RR(リアエンジン・リアドライブ)故に重心位置が後ろ寄りになり
重心位置~空力中心までの距離が大きくなるため
横風を受けた時の安定性(=横風安定性)が問題になります。
突風を受けた時にどうなるかを簡単にシミュレーションしようということで
N88Basicで作って、実車試験との相関も取って使えるようにしてました。
シミュレーションプログラムそのものは
それほど小難しい計算をしているわけではないですが、
当時は実験部員がそのようなシミュレーションをしたり
さらにはシミュレーションプログラムを制作するのもけっこう珍しかったと思います。
5.横滑り角算出プログラム制作
操縦安定性ということで車両の運動特性の計測には
角速度を測るジャイロスコープや加速度計を用いるのですが、
当時は地球ゴマ(が何だか分からない人も多いでしょうが)みたいな原理で作動する
機械式回転型ジャイロを使ってました。
今ではスマホにもジャイロセンサーが入っているほど小型のものがありますけどね。
他に車両の横滑り角(まぁドリフト角みたいなもの)を測るために
非接触速度計を前後方向と横方向と2個装着して測ることもありましたが
計測器の装着が面倒だったり応答性が悪いことなどがあり限定的でした。
また、横風試験などでは車両が横風によって
どれだけ横に流されたか(横変異量)を知りたいのですが、
これも非接触速度計で距離を測るか
それとも路面にスタンプやインク噴射して後からメジャーで測るかしなければならず
ともてじゃないけど気軽にやれるものではありませんでした。
そもそも車両の外部に計測器付けると空力特性も変わってしまいますしね。
もっとも今なら高精度GPSで簡単に測定できますけど。
そこで、ジャイロで計測した角速度と加速度計の横加速度を組み合わせて演算して
横滑り角と横変異量(横方向にどれだけずれたか)を
簡易的に計測することをできるようにしたのです。
もちろん、これは走行速度が一定で分かっているという条件でのみ有効なもので
かつ2階積分の計算が含まれているので精度補償のため
一定時間直進走行して補正することが必要でしたけど。
6.周波数応答試験結果からタイヤのコーナリングパワーを推定するプログラム
この説明にはその前に周波数応答というものを説明しておく必要があるでしょう。
アンプなどオーディオ機器に興味のある方ならご存知でしょうけど
それと同じように周波数に対する応答特性がどんなになっているかということです。
ハンドルを切るのを入力とし車両の運動、
例えばヨー角速度(向きを変える速さ)や横加速度などを出力として
横軸を周波数、縦軸をゲイン(入力の大きさに対する出力の大きさ)と位相とした
ボード線図と呼ばれるもので表すのが一般的です。
周波数応答特性を得るたの試験法も様々なものがあるのですが
スバルでは車速を一定にしてゆっくり左右にハンドルを切っていって徐々に素早く、
つまり周波数の低いハンドル操作から次第に周波数の高いハンドル操作まで
満遍なく行っていきその時のハンドル角、ヨー角速度、
横加速度(横向き加速度)などを計測していきます。
それをFFT(高速フーリエ変換)して周波数応答特性を得ていました。
ゲインだの位相だの共振周波数だのいろいろと聞き慣れない言葉を使うのですが
要は時間領域→周波数領域の変換をして表現しているだけのことなんですけどね。
ただ、正直、操縦安定性の業務をしている人の中にも
この時間領域→周波数領域の変換ってな概念が
曖昧なままと見受けられた人もいたみたいです。
かくいうボクも最初は完全には理解できてなかったんですよね(汗)
大学で制御工学などでこの周波数領域への変換は学んだはずですし、
数学的にも必要となるラプラス変換・逆ラプラス変換も学んだはずなんですけどね。
ですので、大学の時の教科書を再度いちからやり直しましたよorz
それから自分で車両の運動方程式を立てて展開してラプラス変換して……
いろいろやってみるうちに完全に理解できるようになって、
そしたら周波数応答特性を実験的に得ることができれば
そこから逆算すればその車両の実際のコーナリングパワーを
推定できることに気づいたということです。
もう少し書くと、得られた周波数応答特性を近似して
ラプラス変換された幾つかの定数を同定できれば
コーナリングパワーが推定できるというわけです。
ちなみに、タイヤのコーナリングパワーというのは
タイヤのスリップ角に対するグリップ力の勾配のことです。
グリップの最大値ではなくイメージとしてはシャープなタイヤかどうかということですかね。
サーキットを速く走るにはグリップ最大値が重要ですが
一般道などでの操縦安定性にはコーナリングパワーが重要になります。
実際にこの推定プログラムで分かるのは装着しているタイヤそのものの
コーナリングパワーではなく車両として発揮しているコーナリングパワーです。
なので、その車両のサスペンションが巧く機能していて
装着しているタイヤのコーナリングパワーを有効に活かしているかどうか、
あるいは前後サスペンションのバランスなどが分かってくるということです。
さてさて、長々と書いてきてしまいましたが、、、
うーん、面白い記事にはなってませんねぇ。
我ながらそう思います。
簡潔に説明できないので長々となっているだけですし。
まぁ、結局はこの当時はあれこれと色々とやっていたといっても
誰かから細かく指示されてというより
自分から課題を見つけて取り組んでいくことができていたので
それなりに仕事が面白かったということです。
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コメント
さすが、ちゃんとした技術者されてましたね。
自分にとっては専門外な案件ばかりですが、詳しく知りたいことだらけです。
その車を分析する目には愛車プジョー106ラリーはどう映るんでしょうか?
投稿: はら坊 | 2019-01-20 07:34
>はら坊さん
詳しく書こうとすると数式書かないといけなくなるし
ラプラス変換記号などココログで書くのも大変そうなのでやめときます。
プジョー106ラリーに限らずですがプジョーは少し安定性が悪いですね。
個人的にはそれほど問題とは思っていませんがそれでも歳取ってくると
ラリっ娘の高速安定性不足はちょっと気になります。
でもそれを補って余りあるほどのハンドリング(操縦性)があるのが魅力ですかね。
投稿: JET | 2019-01-20 07:50
そうですか、高速安定性不足に感じられているんですか。
過去試乗したプジョー(205GTi/106XSi/106S16)は、ワインディングが楽しいけどリアの流れだしが早いと感じましたっけ。
終始アンダーに徹するGTTとは同じFWDハッチバックながら、差を感じました。
GTT乗り始めの頃、富士自で205GTiを代車で借りた時は、こっちの方が良かったかもって思ったこともありましたね。
投稿: はら坊 | 2019-01-20 11:41
>はら坊さん
そうですね、リアの流れだしは早いですね。
唐突ではありませんが限界付近では心の準備が必要となります。
高速安定性は限界領域の話ではありませんが
どこかで共通している部分なのかもしれないですね。
投稿: JET | 2019-01-20 12:21