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「女系図でみる驚きの日本史」を読了

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新潮新書の「女系図でみる驚きの日本史」大塚 ひかり 著を読みました。

帯に書いてありますが「大事なのは胤(たね)よりも腹だった!」
この文言はなかなか面白いですね。
わざわざ“種”ではなく“胤”の字を使ったのは単に珍しく関心を惹こうとしたから?

そう、ボクは“胤”の字を知らなかったので調べちゃったのですが
“胤”とだけいった場合は「血筋、血縁」ってな意味で
腹と対になる概念じゃないようなんですが、
「子胤」なら精子を示すし「胤違い」なら異父兄弟なので「腹違い」と対になりますからね。

この本の著者の大塚ひかり氏はボクは今まで知りませんでしたが
肩書は古典エッセイストとかなってますから
まぁ確かにこの本のタイトルとはあっているというか、
内容とも合っていて、まさにエッセイ的な内容になってます。

彼女は昔から古典文学が好きでそれらを深く理解するために
自分で女系図(母系図)をこしらえて楽しんでいたといいますから
ある意味では趣味が高じてこの本が書けているのでしょう。

家系図というと(少なくとも日本では)どうしても男系図(父系図)ばかりでてきますから
女系図に着目するという発想はなかなかユニークだし面白そうです。

ただ、個人的にはどうしてそのような、つまりは平安時代などでは
「胤より腹が大事」とされた社会になっていたのか、
それより古い古墳時代、弥生時代、、、と遡って
日本の社会と日本人の精神性の方に興味が湧くわけですが
それについてはこの本では深く考察・言及されてないんですね。

まっ、昔は夫が妻の家に通う「妻問い婚」であって
子供が生まれても妻の家で育てられるから腹が大事だったのだろうとか、
その後武家社会になって武力としての男性が重視されていく中で
腹より胤が大事と考えられるように変わっていったみたいなことは書かれてますが、
それは前回読んだこの本でも触れられていたものですからね。
ボクはその奥の話が知りたかったんですけどね。

でも、そこはやっぱり研究者ではなくエッセイストですから
そこまで踏み込んだ考察や議論にはならないのはしかたないですね。

 

エッセイストらしく、どこぞの誰それとあちらの誰それとは
女系図でつながっているとかそんな話ばかりが出てきます。
さらには、そこから誰それと誰それは近親相姦とか
強姦でできた子だとかうんぬんかんぬんまで色々な話が出てきます。

古代から中世の日本(の貴族社会)ではそんなんばっかりだったいうのは
知っていても損ではないですが、
具体的に誰と誰がとかそんなのは個人的には
現代の芸能人の不倫がどうとか騒いでいるのと同レベルの
あまりに下世話なゴシップネタに感じてしまいます。
たとえそれが古典文学の正しい理解に必要なことだとしてもね。

しかも、その下世話な中身を理解するのにも女系図と睨みっこしながら
ここがこう繋がってあちらからこう繋がって……と
じっくり考えなくてはならないので、
そんなの面倒でやってられないよってなボクにとっては
ほとんど頭に入ってきませんでしたorz

少なくとも、この本のタイトルに“日本史”って書いてあるのだから
せめて歴史という流の中で女系図としてどう関わりあいがあって
それがどう歴史を動かしてきたかをしっかりと整理して論じて欲しかったです。

ただ、視点を変えてそんな平安時代の貴族社会をみると
如何にほとんど身内ばかりという小さな世界で生きていたのかが分かります。
つまり、それは日本の縮図でもなんでもなくてある意味日本の中の異世界ですね。
貴族以外の日本人・庶民がどんな生活をしていたのか
そちらに焦点をあてた研究やエッセイがあってもいいのになと思います。

その時、日本人の庶民まで「胤より腹が大事」の感覚が強くあったのかどうか
そこまでせまって欲しかったですねぇ。

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コメント

その昔貴人の胤っては大変貴重でイナカに貴族が来ようものなら
村をあげて自分の娘に胤をくれ・・と大騒ぎになったようです。
もし娘が妊娠したら自分の家の家系に貴人の胤が入ったと大喜びだったようです。

投稿: おおたけ | 2018-11-15 19:19

>おおたけさん

なるほど、そういうならわしというか意識だったのですね。
これまた勉強になりました。

ただ、この本でもそんなので母方になった人は「卑母」と呼ばれて
その子もまた貴族社会の中ではイジメの対象みたいになったらしいので、
元のイナカのムラ社会では大歓迎であっても
貴族社会から見ると廃絶したい存在であったのでしょうね。

投稿: JET | 2018-11-16 03:03

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