スバルの燃費データ改ざんについて
三菱、スズキに続いてスバルも…と言われることもありますが、
不正の中身についてはかなり違いますので
ひとまとめに論ずるのはちょっと違うかなと思います。
どれが悪質でどれがまだましかという問題ではないですけど。
特にボクは現役時代は新車開発の部門にいましたから
三菱、スズキの場合はその開発部門における不正であるのに対し
今回のスバルの場合は生産部門における不正なので
大きな違いがあると感じてしまいます。
どうしても、開発、生産、販売(営業)と分けて考えてしまいますから。
もっともそれは業界内にいたからの感覚であって
世間的に見ればひとつの会社内ですから
どこの部門の不正であっても同じことと見なされると認識してますけどね。
スバルに在籍中、特に終盤の10年ほどは車両研究実験総括部という
新車開発の中でも性能全体についての責任部署に所属していたので
当然ながら燃費性能についても管掌する立場にありました。
スバルの場合というか他の自動車メーカーでも似たようなところはあるでしょうが、
実験部門が開発の目標性能を自ら掲げて
そしてその達成も実験部門が責任を負うという少し変なところがあるのですが、
(GMは企画部門に独立した目標性能立案部署がありました)
なので燃費については競合他社に負けないようにと高い目標性能を掲げて
その達成に四苦八苦するという連続になるわけです。
余裕なんてないですからほんとに細かなことまで突き詰めていくのですが、
カタログ燃費数値などは最終的には認証試験で決まりますから
当然ながら合法的範囲における認証テクニックなるものも存在します。
すり合わせ(慣らし走行)、各部品公差、運転技術など様々ありますが
それでも必ず遵法の範囲内での技術になります。
その範囲を明らかに超えたことをしちゃったのが三菱なんでしょうが。。。
スズキの場合はテストコースの問題と説明されていますが、
ボクが推測するにはおそらく惰行試験のための認証車を製作するのを省いちゃって
開発予算と開発期間を圧縮するのが最大の目的だったと見ています。
とすれば、かなり組織的に意図的にやっていたことになるでしょう。
それと同時に開発終盤でも量産車相当の試験車を製作することなく
つまり燃費以外の性能もCAEによるバーチャル試験で済ませていたのでしょう。
ただ、やはり実車試験がないと感性に訴えるクルマは出来ないと思うんですが。。。
今回のスバルの場合は、いちおう開発および認証での不正ではありませんでした。
量産段階になって工場での生産にあたっての品質管理としての燃費計測データを
不正に改ざんしていたとされています。
自動車も工業製品であり大量生産品ですから生産によるばらつきはあります。
それをいかに小さくし管理していくかが品質管理になるわけですが、
そのばらつきが大きいものを改ざんして品質管理を良く見せかけたことになりますし、
ユーザー側からすればばらつきの大きなものを買ってしまった可能性も
あることになりますから問題ですし気分も良くはないでしょう。
今回は違法となるほどのばらつきではなかったという判断から
リコールなどもないという結論に至っていると思われます。
ただ、今回の件は生産部門だけの問題であって
開発部門はまったく関係ないとは言いきれませんし、
遡ってボクが現役時代に携わってきた仕事としてもまったく無関係とは言い切れません。
実際に新型車の生産立ち上がり時には工場出荷検査での燃費値が
開発時や認証時のカタログ値に届かずに問題となることもあります。
エンジンなどの学習制御であったり慣らしであったり
あるいは内部の部品公差の偏りであったりするのですが、
そのような時には生産部門から直接にエンジン実験部などに連絡が入るようです。
燃費性能は最終的には車両全体が関わるので車両実験総括部の管掌ですが
総括部は群馬=車体側と三鷹=エンジン側それぞれのメンバーで構成されていて
燃費性能に関する一報はどうしても三鷹の方に伝えられるのが実情のようです。
ですから、ボクはどうしても生の情報に触れる機会はありませんでしたが
それでもひとつの車種の開発をまとめるプロジェクトチームの一員としては
それらの情報をいずれ共有することになります。
逆に言えば、生産初期にはそのような(燃費未達)報告もあったりするわけで
それなのに何故改ざんが行われたのかというと不思議に思えるかもしれません。
社長の会見からはそのあたりの理由が明確に報道されてませんが、
それは高操業下にあって生産台数優先となってしまったということでしょう。
燃費測定結果が管理値内にはいってなければ原因を特定し修正するまでは
生産停止としなければいけません。そういう社内規定のはずですから。
残業・休日出勤のフル操業、ピッチタイムもMAX状態で生産しても
それでも国内では納車までに2ヶ月待ち、3ヶ月待ちの状態だったり、
海外では実車の店頭売りが中心なので在庫がなくなれば
ディーラー店舗からの苦情の嵐状態です。
そんな状況でとにかく1台でも多く生産しなければということから
生産停止の判断ができずにこのくらいならという気持ちが起きてしまったのでしょう。
気持ちは分からないではありませんし、
その1台でも多く生産をの気持ちが
ここ数年のスバルの業績にも反映されたのは事実ですが、
それでもやっぱり一線を超えてしまってはいけません。
ちなみに、三菱の場合は認証値に対して実力の燃費が大幅に悪かったのですから
工場出荷時の燃費も大幅に悪いはずで生産部門も不正に加担していたのでは?
と思われる方もいるかと思いますが、
三菱の場合はCDMにセットする走行抵抗値を不正に低くしたものですから
工場出荷時の測定もCDMで同じ(不正な)走行抵抗値を用いるので
生産現場では問題を見抜けなかったのでしょう。
今後、コンプライアンス意識の教育・啓蒙や不正ができない組織・管理体制も必要ですが、
スバルの場合、そこまでギリギリの生産をしないと収益が出せない
という企業体質も根本原因としてあるかと思います。
確かにここ数年だけは業界トップクラスの利益率をあげたスバルですが
その中身のほとんどは為替によるものであったり、
増産対応への大幅な設備投資を抑制した結果であったりで、
要するにまだまだ企業体力として余裕がないんですね。
この根本原因をどれだけ認識してどう対応していくかが
今後のスバルの課題になるんじゃないでしょうか。
それから、開発部門としても余裕がなさすぎなのでしょう。
燃費技術の余裕がないからちょっとした生産ばらつきなどで
カタログ値に満たないものが出てきてしまうのでしょう。
良く言えば「頑張り過ぎ」なんですが
そこまで頑張っても燃費で他社に対して優位に立ててないのも現実で、
そこにはやはり基礎的な技術開発の遅れや
水平対向エンジンへの固執の弊害が表れてしまっていると思います。
電動化対応なども含めてそこも今後のスバルの大きな課題でしょうね。
最後に、今回の件は既に退職してしまったボクとしても非常に残念なことですが
かといって一方的に全面的に批判できる立場でもありませんから、
今後のスバルの企業体力の強化と信頼回復を祈って
この記事をしめたいと思います。
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