「動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか」を読了
実は以前に同じ福岡 伸一 著のこんな本を読んでいたんですね。
講談社現代新書の「生物と無生物のあいだ」です。
テーマは同じではありませんが、この本にも「動的平衡とはなにか」という章もあり
内容的にも重複している部分がないわけでもありません。
それでも、またかと思うような読み飽きた感はまったく覚えずに
むしろ知識を補完しながらさらに深い内容になっているというように
面白く読み進めることができました。
この本のテーマの『動的平衡』とは何かというと、以下に少し抜粋します。
(以下抜粋)
生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換
えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され
続けているのである。
だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヵ月前の自分とはまったく別物に
なっている。分子は環境からやってきて、いっとき、淀みとして私たちを作り出し、次
の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。
つまり、環境は常に私たちの身体の中を通り抜けている。いや「通り抜ける」という表
現も正確ではない。なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけで
はなく、ここで容れ物と呼んでいる私たちの身体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一
時的に形作っているにすぎないからである。
つまり、そこにあるのは、流れそのものでしかない。その流れの中で、私たちの身体は
変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れ自体が「生きている」という
ことなのである。シェーンハイマーは、この生命の特異的なありようをダイナミック・ス
テイト(動的な状態)と呼んだ。私はこの概念をさらに拡張し、生命の均衡の重要性をより
強調するため「動的平衡」と訳したい。英語で記せばdynamic equilibrium(equi=等しい、
librium=天秤)となる。
(抜粋終了)
だから、ボクなんて50ウン年もこの世に生きてきて
少しずつ大きくなりそして老けてきつつも
50ウン年もその個体が存在し続けていると思ってはいるが、
実はそれを構成しているあらゆる細胞もそれを作っているタンパク質も
さらには分子レベルでみても何一つとして
まったく儚いものの集まりでしかないということなのです。
著者はそのような例えは使っていませんが、
伊勢神宮の式年遷宮のようなものとも言えるかもしれないですね。
どうして生命はそのような一見無駄とも思えるような作り変えをし続けているのか?
これについての著者は、今回加えられた最後の章にて
エントロピー増大の法則(熱力学第2法則)を持ち出して考察をしていて、
そこから生命は作るより(自らを)壊すことに専念しており
それによって結果的に動的平衡を保とうとしているとの考えを披露しています。
この部分はまだ正解とか定説とかの内容ではありませんが
それ故にとってもとっても興味をそそられる内容になってますね。
なお、この本では「動的平衡」だけを扱っているわけでもなく、
歳をとると1年が早く過ぎるのはなぜかとか
健康食品とかアンチエイジング商品の無意味さとか
ES細胞やiPS細胞などによる再生医療の難易性などにも言及されていて
それらについてもなんとなく腑に落ちる話でとても面白いものでした。
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