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レガシィ10万km速度記録の真記憶

前回、途中までしか書けませんでしたので今日はその続きです。
本番でのトピックスを思い出して書いてみます。

アリゾナ州フェニックス周辺は避寒地になるほど
冬場でもあまり寒くならない地域と言われてますが、
(その分、夏場は灼熱となるそうでだからこそそこにテストコースが造られたんですが)
夜は予想外に気温が下がり、
エンジンの吸入空気も下がってガソリンが気化しにくくなり
エンジン内部でも液体のままのガソリンがシリンダー壁面に付着し
それがエンジンオイルに混入するというオイルダイリューションが発生してしまいました。

というのは、記録達成のドキュメンタリー番組でも放送されてましたし
今でもダイジェスト版などをYouTubeでも見ることができる内容です。

また、アリゾナ州フェニックスでは雨は非常に少なく
特に冬季はまず雨は降らないという事前情報だったのですが、
見事に夜に雨に降られました(笑)

まぁ、これもドキュメンタリー番組でもYouTubeでも報道されてますし、
少しペースダウンして走行しただけで
ロスタイムもそれほど深刻なものではありませんでした。

むしろ、ATC(アリゾナテストセンター)内の通路の方が池になったり
ドロドロヌタヌタでスタックしそうになったりとか
コースそのものよりも酷い状態になって往生した記憶があります。

 

さて、ここからが今だから明かせる(?)とっておきネタになります。
2つほどトピックスを書きましょう。

1)スピンしかけてあわやクラッシュ

サーキットレースやラリーとかと違って一般の観衆の前でやったわけでもなく
メディアが自由に取材していたわけでもライブ報道していたわけでもありませんが、
専属のメディアが同行して記録映像を撮っていました。
確かスポニチ系だったと思いますが曖昧です。

そうは言っても、ただ単調なオーバルコースを3台のレガシィが
ブォロブォロブォロ~と走り回っているだけでは面白味にかけるだろう
というのは走っている方でも分かります。

そんな折に、ボクの走行時間の最期にピットインする模様を
撮影するという事前連絡がありました。
突然、カメラクルーがピットレーン脇にいるとビックリするかもしれないからと
事前連絡をくれたのでした。

で、前々からもう少し緊迫感のある映像の方が面白いだろうと思っていたから
(RAに批判的な立場でありながらもこういうところだけ真面目に考えちゃうんです)
決められている速度、そしていつもより減速を遅らせて
ピットレーンに進入してやりました。
といってもタイヤが鳴るようなブレーキングじゃないですよ。

ただ、ピットレーンは微かにシケイン状になっているんですが
そこで思いもかけずにリアが滑り出したんですよね。
まだかなり速度が出ているのにスピンモードに入っていって
目の前には本来右横にあるはずのコンクリート塀が迫ってくるじゃないですか。

あぁこのままクラッシュしたら……会社辞めるんだろうな、
って考えがよぎりました。マジで覚悟しましたよ。

なんとかカウンターステア当ててスピンモードは収まりそうになりましたが
今度はそのまま行くとピットレーンの停止場所で待ち構えている
ピットクルーを直撃しそうになり、実際にピットクルーも慌てて固まってました。
なぜかこの時はそういう周りの状況もマシンの挙動も
スローモーションのように見えてくるんですよね。

それで、結局、カウンターステアを戻すのをワザとワンテンポ遅らせて
その反動を使って反対側に向きを変えて正規の停止位置より左側に逃げて
やっとマシンを停止させることが出来ました。
ヤレヤレです。生き残りました(-_-;)

Ra_0077
こんなスリップ痕をこさえてしまいましたorz

当然ながら、この直後、親分という人にこっぴどく叱られました。
まぁ、ボクのミスですから何も弁明しませんでしたけど。

ただ、後からこのRAマシンの操縦安定性の計測とかをして分かったことですが、
やはりリアサスのリバウンドストロークがほんどなくて
燃タンがほとんど空の状態でブレーキングするとリヤの接地性が悪くて
スピンモードに入りやすいという特性をもっていたのは事実ですけどね。

 

2)ドライバーチェンジ直後に燃えました!

それは、ボクの走行が終わってドライバーチェンジした直後でした。
白の2号車がピットアウトして行きました。
ボクはいちおうひと仕事終えたということで、ヘルメット脱いで、寛ごうかと……

なぜかピットクルーたちがざわついてました。
で、みたらピットレーン上に白い2号車が止まっていて煙がたちこめてました。
そして、ピットクルーが走り出して白い2号車が押し戻されてきました。

ありゃりゃ、エンジンルームから発火して
車載消火器および外部消火器で消火されて真っ白け、
見るも無残な姿になっていました。

さすがのボクでも茫然としましたよ。
ただ、ボクが走行していた時には何の異常も感じられなかったです。
事実、各部温度、圧力、燃調などなどのログデータには異常なしでした。

ちなみに、F1なら1980年代からテレメトリー全盛となっていましたが
(ホンダでは既に1960年代からテレメトリーを使ってたとか)
このRAでは無線はアナログ音声交信のみで
しかもカールコードの付いたボタン付き黒いマイクを握って喋るタイプの
なんともその辺の昭和のタクシードライバー状態だけで、
エンジン状態などはピットレーン時にデータを吸い上げて
後から分析・解析するというなんとも時代遅れなことをやってました。

 

で、何が起こったのかというと、エンジンオイルのドレンプラグの締め付けが甘く
少しずつオイルが漏れてFRP製の空力アンダーカウルの上に溜まり、
それがピットストップ時の排気系からの輻射熱で一気に燃え上がったらしいのです。

ある意味、空力アンダーカウルが仇となってしまったとも言えますが
前述のようにガソリン成分を含んだオイルだからよく燃えたのかもしれません。
なんにせよたとえ短時間であれ燃えてしまって消火剤まみれになってしまった
エンジンはもう使えません、万事休すです。

ただ、RAの結果のことをよく知っている人はアレって思うはずです。
確か3台とも10万km完走して、さらには世界最速記録を樹立したのは
白い2号車だったはずだと。

 

そうです、復活を遂げたのです。
って、F1とかルマン24時間とか、レース中にエンジン燃えたらリタイアですよね。
でも、カラクリがあったのです。

油脂類、水、ガソリン、タイヤ、ブレーキパッド等々の
補給・交換が認められているもの以外の部品でも
補修部品として車載しているものであれば交換しても良いという
レギュレーションになっているのです。
本当かどうか怪しいのですがそう説明を聞かされてました。

しかも、3台走らせているマシンのどれか1台にその部品が車載されていれば
別のマシンにその部品を使用しても良いというのです。
さらに、笑っちゃうのは使った補修部品は新たに補充しても構わないのです。

そう、なんとも笑っちゃうことにRAに出場したレガシィには
助手席を取っ払った場所に1号車にはエンジンをまるごと一式、
2号車にはトランスミッション、リヤデフをまるごと一式、
3号車にはドライブシャフトやハブベアリングなどまるごと一台分、
ってな具合にほぼすべての主要部品を車載していたのです。

しかも、それらは現地アメリカに着いてから急遽そんな話になって
やっつけ仕事みたいに貧祖なボルトで車体に留めてあるだけ。
マシンはロールゲージやらフルハーネスシートベルトやら
FIAの安全規定でいちおうちゃんとしているし
ドライバーも中嶋悟モデルのフルフェイスヘルメットにインナーも含めて
全て耐火仕様のウェアが容易されてましたが
あぁこのマシンでクラッシュしたら横の補修用エンジンはぶっ飛んでくるだろうな、
直撃されないことを祈るしかないなと悟しかありませんでしたね(笑)

そのくらいあり得ない話だと思いましたよ、
この補修用エンジン積んで走る行為は。

 

そして、白い2号車はその燃えちゃった事件後に
それらほとんどの主要部品を取り換えて新品同様に蘇ったのでした。
メカニックの苦労の賜物と言えばその通りですが
こんな耐久レースって聞いたことないですよ。

いくらレギュレーションがそうなっているからといっても
普通の感覚なら誰でもそりゃぁズルじゃないと思いますよね。
だからこそ、この事実はいっさい報道されませんでしたね。
いまだにちょっとググってもヒットしませんから
もしかしたらこれが初漏えいかもね。

 

さて、エンジン交換はじめ整備で大幅に時間ロスをしてしまった白い2号車、
でも主要メカニズム部品はほぼすべて新品となっている白い2号車、
そこでとられた作戦が2号車は新品同様だからもう耐久性はあまり心配ないから
スピードアップして走らせようというものです。
やけくそ作戦といってもいいかも知れません。

そこで、それ以降は白い2号車は高速走行に慣れたドライバーだけが
専任で走行するようにシフトが全面的に変更されることになりました。
つまり、青の人だったボクもそれ以降は白い2号車の専任ドライバーになったのです。

2号車は1台だけ速い速度で走っているので当たり前ですが追い抜きが発生します。
当初はスリップストリームを使って走るのはズルしているのと同じだと考えて
車線をずらして普通に追い抜いていたのですが、
FIAから委託された形で記録挑戦に立ち合って監視していた
USAC(United States Automobile Club.アメリカ合衆国自動車クラブ)の
メタボおじさんの「スリップストリームを使った方がいいじゃん」発言から
 ※USA内の自動車レース統括団体もいろいろきな臭い話があって
 だからこそ10万km速度記録などの公認に立ち会うと箔がつくとか
 それぞれの思惑がうごめきあって
 だからこそ他国のスバルにも忖度してくれる状況になったわけですし、
 さすがにそういうところを巧みに嗅ぎ付けて立ち回るのが
 親分という人だったわけです。
突如スリップストリームを最大限使用する走行に切り替えられました。
そんな状況から、報道ドキュメント番組でも放送された親分からの無線指示、
「チリュウ、あと30cm後ろに下がれ」の迷言が生まれたわけです。

“チリュウ”ってのはボクの本名でもなんでもないのですが
なぜかあの人はそう発音していたんですよね。
それはどうでもいいことですが。

で240km/h近くで走っている車で数十m前の車との車間距離を
数十cm単位で調節するなんて出来るわけないんですが……
ボクは「了解」とか言って、親分が「そう、それでOK」とか言うわけですから、
まぁ茶番ですな(爆)

後々までいろんな人から「あんな微妙なコントロールできるんですか?」って
訊かれましたよ。出来るわけないでしょ(爆)

 

そういえば、1980年代後半ごろにスウェーデンのボルボが
世界中で片輪走行を披露してプロモーション活動している時期がありましたが、
その影響なのかどうか親分は
「オレの部下は2輪走行どころか1輪走行ができる」
とかアチコチで吹聴していたためそれを真に受けた人から
「○○さんも1輪走行できるんですか?」とか訊かれて辟易してましたね。

そんなことできる人がいるとも思えませんし
そもそも自動車メーカーの技術者で片輪走行でも出来たからといって
なんの役にも立たないわけですから。
高橋レーシングじゃないんだからね(笑)

 

閑話休題。
というわけで、そんなこんなの色々がありながら白い2号車は
後半ぶっ飛ばしてエンジン諸々の交換ロスタイムも挽回して
そしてあと少しで10万km達成というところになって
最後だけ親分がドライバーを務めて
当時の世界記録を樹立したのでした。

めでたしめでたし。ですね。

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コメント

今回も貴重なお話をありがとうございました。
あの記録達成の表に出てこない(出せない)事がこんなに・・・

投稿: はら坊 | 2018-07-07 10:23

>はら坊さん

報道ドキュメント番組制作はシナリオを再構築するのにかなり苦心したでしょうね(笑)

投稿: JET | 2018-07-07 16:02

楽しく拝読させていただきました。ありがとうございました。以前ちょっと聞いた話では、走行中に「エンジン回転数を100rpm上げろ」なんて無線指示がドライバーに入ったとか入らなかったとか……。

投稿: よっさん | 2018-07-07 17:41

>よっさん

そんな話もあったかもしれません。
ただ、タコメーターの目盛線は250rpm毎ですから100rpmなら
精度はともかくなんとか読み取れる範囲ですね。
それに100rpm違うと速度でも5km/hくらい変わってくるので
有意差がありますね。
25rpmとか10rpmとか言われるとこれは茶番になりますね(笑)

投稿: JET | 2018-07-07 18:16

1輪走行の話、親分がメーデーの日に宇都宮で公演をやった時聞きましたよ。出来るっつーんなら出来るんだろうけど、どのタイヤで走るんだ?って感じでしたが(笑

投稿: ゆのじ | 2018-07-08 09:55

>ゆのじさん

これだけ動画投稿サイトなど一般的になった今でも普通の四輪車で一輪走行し続ける動画は
お目にかかったことはないので出来るとは思えないんですけどねぇ。

ボディの重さに対して車輪のジャイロモーメントは二輪車より小さいのでバランス取り辛いし、
ボディの重さに対してドライバーの体重も小さいので体重移動も効果少ないですし、
だから片輪走行ではハンドル操作で左右バランスするんですが、
後輪だけの一輪走行ではそのワザは使えませんよね。

となると前輪だけで一輪走行するしかありませんがそれでも左右バランス取るのは
至難の業ではないでしょうか。
前後は二輪車のウィリーみたいに駆動力/ブレーキでバランス取れるんでしょうけどね。

投稿: JET | 2018-07-08 10:28

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